水稲雑草の代表的なコナギが生える水田は稲作の適地でもあります。一般社団法人北陸EM普及協会では、(公財)自然農法国際研究開発センターが2007年に発表した「田の草が教えてくれる土の状態」に基づいて6年前より(株)EM研究所と共同でコナギ抑草技術に取り組んできました。福井県勝山市の南都志男さんの圃場(1町1反)では平成30年は一度も除草作業に入ることなく、無農薬・無化学肥料で、収量も数年前より450kg~540kg/10a前後で安定してきています。
除草効果を上げている圃場の特徴
①秋処理の実施により有機物の分解が促進されている
稲ワラの分解度合いによって、雑草(コナギ)の発生が大きく異なってきます。
よって、稲刈り後稲ワラの分解を促進させる様に、EMボカシ100~150kg / 10a、米糠200kg / 10a、貝化石30kg / 10aを田面にブレンドキャスターで散布し秋処理用EM(EM研究所製造)を10リットル10a散布しロータリーを高速回転にして低速で耕起し稲株の分解を促します。耕起後再度秋処理用EMを10リットル / 10a散布します。
以前、地力の充分で無いほ場にEM牛糞堆肥を400kg / 10aを数年投入したことがありますがここ10数年来は上記のEMボカシと貝化石と米ぬかとEMの液のみで栽培が出来ています。
②春の植え代かき以前の有機物の未投入
投入有機物がコナギの生育を助長する可能性があるため
③コナギ抑制対策用EMの適期の施用
(「水稲栽培暦」を参照。クリックで拡大。印刷用PDFデータはこちら) 使用するEMはEM研究所製造の水稲雑草対策用EMを使用しています。EM研究所の試験結果から安定した一定濃度のあるEMがコナギの発芽促進の働きがあることが確認出来ましたのでEM研究所に製造を依頼して水稲雑草対策用EMとして特別に製造して頂き農家に頒布しています。濃度によって生成される有機酸や有効成分の量が異なるためです。EMは育土効果とともに雑草の発芽を促します。
④深水・浅植え代かきを実施している
この深水浅代掻き作業がコナギの発生を抑制する重要な作業です。これは発芽種子を浮かせ未発芽種子を土中に沈め発芽条件を抑制する作業になります。
ドライブハローで深水(10cm前後)で地表2~5cmの土で泥水を作る感じで代かきを行います。進行速度はゆっくりにし、回転は高速回転にします。ワラが土の表面に残らないようにします。稲藁の管の中にコナギの根が伸びてしまうからです。未発芽のコナギの種子を土中3cm以下に沈める感じで泥水をつくる代かきを行っています。
⑤田植え後の有機物投入等によるトロ土層が形成されている
田植え後にをEMボカシと米ぬかを半々にしたペレット50kg~60kg/10aを散布し初期生育の確保とトロ土層の形成を促します。
トロ土層がなければ草は表土に活着しやすくなります。トロ土層は流動性が著しく草は活着できません。水より比重の軽い草は浮きますので抑草効果が出るのです。
田の草は、水稲栽培に必要な土づくりを教えてくれる
水田は本来稲を育てる能力を潜在的に有しています。田の草の繁茂は、稲作にとって大きな阻害要因のひとつですが、土の過不足状態を示し水稲栽培に必要な土づくりを教えてくれる存在でもあります。
阻害要因として
- 每年の有機物の投入による養分過剰の圃場では、クログワイの発生・イネミズゾウムシの発生、イモチ病・カメムシの多発等がみられます。
- 雑草に対する対応の遅れにより、クログワイ・オモダカ・コナギ・ホタルイ・マツバイの発生があります。
- 地力の低下・動物性有機物の投入・籾殻にヒエの種子入りをほ場に還元等によってヒエ・マツバイの発生がみられます
コナギ対策
コナギやオモダカは、有機物の豊富な栄養条件下で有機物の分解によって酸素が少なくなった還元的状態に適応して発生します。そのため、水持ちが良く、有機質肥料施用量が多い水田ほど酸素分圧が減少して 還元的になり、コナギやオモダカが生育しやすくなります。
コナギは種子で繁殖する1年草です。発芽深度は主に2cm、発芽温度25℃以上で80%以上発芽、出芽日数10日~20日、湿田、低酸素条件で発芽、代掻き過多、水稲根の伸長を阻害する有機酸の蓄積で多発する、光不足には弱い性質を持っています。
抑制対策は、前述の除草効果を上げている圃場の項目ですが、春の管理を詳しく説明しましょう。
- 入水可能な状態になったらほ場に水を入れ温度を確保する
- 荒代かきはドライブハローで通常の深さで行い田面の高低差を荒代かき時に均平化を行う
(植え代時の深水浅代かきではほ場の均平化を行う作業が困難な為) - 入水期間は土が全体に隠れる程度の浅水管理する5月28日、コナギの発芽を確認して植え代かき
- ほ場内の水温が25℃になった事を確認してから水稲雑草対策用EMを20リットル / 10aを流し込む
- ほ場内の水温の確保に努める
- 植え代かき。ドライブハローで深水で浅く植え代かきをして未発芽のコナギの種子を埋没させ、発芽した雑草を浮かせ除去する作業になります。(コナギが双葉になった頃が適期と思われる。)
- 田植え後ボカシ等を散布してトロ土層を形成させる
クログワイ対策
排水性が悪く、乾燥しにくい土質に鶏糞、くず大豆を投入している。砂地だが、耕盤が高く、作土層が薄い所に秋に毎年有機物を投入している田に発生します。
根も深く塊茎は地下17~18cmほどの深さに分布しています。
クログワイの発生の見られるほ場では収穫後から田植え後迄の期間の有機物投入をやめ、秋の耕起時にEMの活性液を散布します。散布量は10倍EM活性液をトラクターの前部から20ℓ / 10aを、散布しやすい希釈倍率にして耕起しながら散布します。
クログワイの多発ほ場ではプラウ耕、又は二山耕起で冬期間に乾燥状態にしてクログワイの種子を枯死させます。また、翌年休耕田にして、夏の乾燥で種子対策を行なったり、大豆等の作付けを行い地下部分の余剰養分を作物栽培で活用する等の対策をします。
ノビエ対策
ヒエは浅水条件や漏水する田、有機物の施用が少なく、カントリーの籾殻の投入などで埋土種子量が多い痩せた田や未熟な堆厩肥(硝酸態窒素が残る)の多投で多発します。10℃前後で発芽し30~35℃頃が成長の最適温度です。出芽可能深度は2~5cm。湿った土で良く発芽します。発根すると正常に生育するために酸素が必要です。
ヒエの抑制は、無機栄養に依存した微生物相から有機栄養に適応した微生物相に遷移することで窒素代謝が変わり硝酸態窒素が減少することで発生が抑制されると思われます。田植え後のトロ土層を発達させ種を土中に埋没させます。秋処理の時にはEM散布し冬期間の間に発芽を促し通常より早く発芽させ代掻きで対応します。
おわりに
EM研究所技術提携農家であった中川清さんは除草機を持たないで自然農法田7町歩を一人で耕作していました。中央農業総合研究センターの土壌微生物多様性・活性値の分析で研究者に「驚くべき稀なる結果」と言わしめた豊かな圃場です。
稲が生育、繁茂する力で収量・品質を下げないレベルまで雑草を抑制していくという考え方が重要です。
雑草生育を助長しないように「過剰に養分や堆肥を施用すること」や、「過剰な耕起や代かき」をしないことが必要です。水持ちと水はけの良い土壌構造を持った土づくりを秋から始めることが基本となります。
参考資料と問い合わせ先
●「水稲稲作の基本技術」(財)日本土壌協会
www.japan-soil.net/report/h23.htm
●「EMによる水稲雑草(コナギ)対策」
㈱EM研究所 ☎054-277-0221
●一般社団法人北陸EM普及協会 ☎ 0779-64-5447