EMを活用した抑草対策

EMを活用した抑草対策

雑草減少で収量UPを目指す

  • 稲作

宮城県
及川正樹さん

1.地域と経営の概要

宮城県の北東部に位置する登米市は、西部が丘陸地帯、東北部が山間地帯で、その間は広大で平坦肥沃な登米耕土を形成、県内有数の穀倉地帯となっており、宮城米‘ササニシキ’‘ひとめぼれ’の主産地として有名。農業産出額は年間303億円となり、東北地方第2位を占めている。地域の気象条件は年平均気温11.1℃、年間降水量1,069mm、日照時間1,820時間、無霜期間は4月中旬〜10月下旬である。

<経営概要(2014年)>
栽培年数 自然農法実施14年(慣行農法0年)
耕作面積 自然農法実施面積808a(全耕作地917a)(圃場枚数40/45枚)
労働力 専業従事2人、臨時雇用90人・日/年(畔草刈り、稲刈り、脱穀)
農機類 トラクター32ps、田植え機6条、バインダー2条×3台、色彩選別機、動力噴霧機、自作揺動除草機、畔塗り機、プラウ

 

2.育土(土つくり)の考え方と基本技術

N、P、Kといった土壌成分には、特段こだわっていない。作物の出来、(収量、品質)が重要だと考えている。土つくりとして稲わらの圃場への還元は重要だと思うが、現在は天日干し(棒かけ)をした米にこだわって販売しているので、脱穀した稲わらは土壌に還元せず、有機畳の原料として販売している。稲株は残っているので、収穫後に米ぬかを100〜120kg/10aを施用し、早めに耕起する。4月に2回ほど耕起してならし、未熟有機物を田植えまでに分解しておくことがポイントと考えている。

時期・作業別のEM活用実施方法

時期・摘要 日付 実施方法・その他
秋処理


稲藁は全量持ち出し(天日干しして収穫しているため、稲わらは有機タタミ店へ販売している。
11月28日 米ぬか150㎏/10a
12月8日 耕起(浅め)
春耕起 3月12日 耕起
4月20日 EMボカシ60㎏/10a・粗挽き天日塩12.5㎏/10a施用
4月22日 耕起
種籾処理 無肥料土でプール平箱育苗。養分はオーガニックジャパンの水稲育苗
(N5.4、P7.3、K2.4)(粒状)を4回(入水箱)に分けて追肥している。
光合成細菌(EM・3)を自家製で培養したものを混合している。
入水 4月26日 入水。田植えまで3~5cmを維持する。入水可能期間:4月末~8月末
代かき 4月29日 代かき時にEM活性液(以後E活)10㍑/10a点滴
5月12日 E活20㍑/10a
中代かき 5月14日
植え代かき 5月25日 E活15㍑/10a・光合成細菌培養液(以後、光液)6㍑/10a水深を8~10cmほどにし、雑草を浮かせる。
田植え 5月28日 植え代かきから水を保ち、雑草を浮かせたまま、水を張ったままで田植えを行う。
トロ土が多いことと、湛水田植えを行う。
トロ土が多いことと揺動除草をかけるため、やや深植え。
植え付け本数:2~4本植え
栽植密度:条間30cm、株間20cm、坪50株植え(17箱/10a)
田面施用 5月31日 田植え機の側条施肥機を改造してバイオノ有機27㎏/10a(N7.2%)田植え同時施用
6月21日 E活50㍑/10a、光液3㍑/10a流し込み。
水管理 田植え後は、活着まで深くしたくないので、水深5cm程度。通常は、その後成長に合わせて10cm⇒15cmまで深くしていくが、ザリガニ対策のため浅水でそのまま落水する圃場が増えている。
6月26日 ザリガニが大量に発生して、稲を食害するため、対策のため落水し、ウミネコに食べてもらう。
中干し 6月28日
7月12日~21日
再入水し、E活24㍑/10a、光液、流し込み。土が固まるくらいしっかり行う。本来は、やらない方が良いとおもうが、水が来なくなるため、自然と中干しはしなければならない。自然落水で行っている。
出稲 水が枯渇した際に、登熟期にE活(70倍希釈液)と光合成細菌(100倍希釈液)を葉面散布したところ、登熟が上がった。
追肥他 7月5日 バイオの有機S8.5㎏/10a(天候、生育を見ながら調整している。)
E活10㍑/10a流しこみ
粗びき天日塩10㎏/10a散布
雑草対策 7月10日 稲の草勢維持のため、EM活性液と光合成細菌を葉面撒布しており、特に被害はでていない。
7月23日 ミックス液(E活3%、光液1.5%)15㍑/10a葉面散布
7月26日 ミックス液(E活3%、光液1.5%)40㍑/10a葉面散布
7月30日 ミックス液(E活3%、光液1.5%)25㍑/10a葉面散布
落水 8月19日 水が止まるため自然落水
刈り取り 天日乾燥(棒かけ)しているので、手作業が多く刈り取り時期は長期にわたる。そのこともあり、品種を変えて昨季をずらしている。
脱穀は、雪が吹く前までに順次継続して行っている。
収穫

 

10月上旬

刈り取り時期は穂軸の1/3が黄変したときで、バインダーで刈り取り、棒かけを行っている。また、新聞広告を載せて人材を募ったこともある。
目標は、8俵/10a。品質を落としたくないので、多収は、目指していないが、抑草が十分できたところは2割増しで、ササニシキで約9俵/10aと目標収量に達した。

3.病害虫の考え方と基本技術

病害については、ほとんど被害が発生していないので、対策はとっていない。虫害は、カメムシは、畦畔の草刈りを出穂の10日前くらいまでに終わらせ、その後は、草を刈らないようにしてカメムシの田んぼへの侵入を防いでいる。多少被害が出ても、色彩選別をかけてから出荷しているので、とくに問題になっていない。
イネツトムシは、以前発生したことがあったが、その年は、畦畔からEM活性液とともに、EMストチュウを散布し、被害が広がるのを防いだ。イネミズゾウムシやイネドロオイムシは見られるが、被害が少ないので、対策はとっていない。
EMストチュウ(EM5)は、酢(1L)と焼酎(1L)にEM・1(1L)と糖蜜(1L)と水(10L)を加えて発酵させたものである。
※EMストチュウについてはこちら(EM活性液・EMストチュウ(EM5)の作り方、使い方)

4.雑草の考え方と基本技術

<第2図>


<第3図>

自然農法を始めて、10年ほどは、雑草との戦いのようだった。2012年プラウ耕を入れたところでは、クログワイが多くなった。2013年は軽めにプラウの戻しを行ない圃場の均平を良くしたところ、深水が全体的にできるようになり、雑草の発生が若干減った。2014年から、早期入水し、EM活性液も早期に投入、長期湛水、複数回代かきに切り替えたところ、湛水中の代かきで除草でき、田植え後のトロ土層も厚くなり、雑草は発芽しなくなり、収量も大幅に増収した。(第2、3図)

翌年には、他の圃場でも同様の管理に切り替えて、約7割の水田で無除草が実現できた。
抑草は、前述の育土と長期湛水複数回代かき、湛水田植え、深水管理で対応できていると思われるが、土壌によっては浅水で管理しても水が田面を少しでも覆っていればヒエ、コナギ、ホタルイなどは発生しにくく、地温の確保を考えれば深水の心配はないと思う。
また、前年雑草が発生しなかった圃場では、3日程度であれば田面を露出しても雑草は発生していない。砂地の圃場でも、ヒエの発生は2017年確認されておらず、湛水期間の短い圃場ではコナギが発生している。2017年度現在、植え付け39圃場中、ヒエ、コナギ、ホタルイの発生を確認している圃場(微量は除く)は5圃場だが、このほかの圃場でも長期にわたる田面の露出により、雑草が発生するかもしれず、様子を見ている。
なお、長期湛水複数回代かきを行なうようになって、ザリガニによる食害を受けるようになった。食害が見られた場合は、落水して田面を露出させ、ザリガニを鳥に食べてもらうことで対応できていたが、今年は発生が早く田植え後半月程度にもかかわらず、ほとんどの圃場でベタ落水を行なっている。


水を張った湛水(無落水)
田植え田面施用も同時に行う

自家製の揺動除草機


 

 

 


5回除草機が入り欠株が多くなった状態


翌年抑草に成功した圃場は除草機が入らずに
栽培出来たため、欠株が少ない

 

 

 


収穫前の状態


表面のトロ土層の厚みは3-4cmほどあった
表面のトロ土層の厚みは3~4cmほどあった


 

 

 

 

5.出荷、流通に関して

味を重視して販売しているため、自然乾燥した米にこだわっている。とくに‘ササニシキ’は登熟がばらつくので、コンバインで一斉に脱穀し乾燥させるよりも、わらにつけた状態で自然乾燥させたほうが未熟米の追熟があり、よりいっそうおいしくなるので自然乾燥を重視している。お陰様で、震災後に一時的に売れなくなった米も、現在は販売する米が足りない状況となっている。ネットを通じて流通業者にも販売しているがインターネットでの個人への販売がほとんどである。個人販売は、関東エリアで7割、そのほかに、近畿、中部にも顧客がいる。多くの顧客は健康志向で購入してくださっているが、なかには重度のアレルギーで困っている方もいるため、アレルゲンとなりやすい畜糞堆肥を使っての土つくりは行なっていない。現在は、ベトナムにも出荷している(‘ササニシキ’、‘あさむらさき’)。

 

 

 

 

 

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