早川氏の経営の概要
経営面積:30ha(2020年現在)
労働力:本人と奥さん、息子さんの三人
1. 地域の概況
1) 新篠津村
新篠津村は札幌から40kmの近郊にあり、明治29年2月に設立された純農村である。石狩川に沿って形成された石狩平野のほぼ中央に位置した平坦な地形である。この辺りには、石狩川によって運ばれた有機物が長期間にわたって堆積してできた泥炭層が多く見られる。このため新篠津村の土壌の大半は泥炭土壌(高位泥炭土壌と低位泥炭土壌を合わせて村内の55%)に分類される。
2) 新篠津村の農業(平成17年2月現在)
村の総面積は78.24k㎡で、農家戸数は345戸である。基幹作物は水稲であるが、昭和45年以降水田の転作に伴って畑作面積が増大し、今日では水稲50%強、小麦30%強、小豆10%弱の他、花卉類、野菜類の作付けも行われるようになっている。
3) 新篠津村の気象
新篠津村のある石狩平野は日本海型気候に属しており、夏期は青天が多いが、冬には降雪が多くなる。
村の年間平均気温は6.8℃だが、最も気温が高いのは8月(20.6℃)であり、最も低い1月(-6.7℃)との差は27.3℃ある。
また、梅雨に相当する時期の降雨は少なく、秋雨前線の活動が活溌になる8月後半~10月にかけては比較的降水量が高くなる。しかし東京と比べると、年間降水量は350mm程度少ない。
2. 有機ダイズ栽培
(※本項は第9回自然農法・EM技術交流会京都大会で報告された)
1) ダイズ生産の動機
有機農産物による健康増進には常食となる食糧の生産が不可欠であると考えていた。
第6回自然農法・EM技術交流会(2001年、横浜)で有機ダイズの需要が高い事を知り、会のメンバーに勧め、ダイズ栽培の経験はなかったが、翌年から取り組み始めた。
※新篠津村では豆類経営改善共励会(昭和47年~平成9年)で5回の多収記録が出ている。これは泥炭に由来する窒素の発現が登熟期の追肥効果をもたらすためと考えられているが、連作は困難と言われている。
2) ほ場の来歴
ダイズ栽培を行っているほ場は、もともと原野のような場所で、アワ、ヒエ、ソバ、牧草(軍馬用のエンバク)などを栽培していた。
昭和36年に基土客土(20cm)を行い、昭和47年にさらに自費で客土(10cm)を行った。昭和57年に暗渠(約1m下)を設置して転作し、ムギを中心に作付けを行った。
3) 技術の特徴
①機械化作業体系で大面積の有機栽培を実施している。
②ほ場の既存地力を活かして、EM活性液とEMボカシだけで多収を実現している。
③連作でも病虫害の発生がなく、安定収量を維持している。
④早川氏の指導で始めた近隣の仲間も同様の成果を得ている。
4) 生産物に対する評価
流通・加工関係者、消費者からも美味しいと評判を得ている。
3. メロン栽培
(※本項は第5回自然農法・EM技術交流会横浜大会で報告された)
1) メロン栽培の経緯
- 大消費地である札幌近郊でもあり、魅力ある作物としてメロンを考えた。
- 昭和63年から慣行に基づくメロン栽培を始める。
- 施設のため連作になり、メロン栽培を始めた3年目ころからつる枯病(キャンカー)が出始め、全滅したハウスもあった。 ※通常は3~4年でハウスを移転・改築する。
- 平成4年にEMに出逢い、秋から使用を始めたところ、平成5年にはつる枯病が発生しなかった。
- その後、最長で32作連作しているが、メロンの揃いも良く、作りやすいハウスになった。
2) 栽培の実施規模
ビニールハウス 6,100㎡(150坪×5棟、100坪×3棟)
※加温器はあるが、春先の定植時にしか使用していない。
3) 技術の特徴
- EM開始初年は秋と春にEMボカシ100kg/10aずつを施用してメロンを作付けたところ、発病を見なかった。EMボカシの年2回施用は3年ほど続けたが、病害は発生しなかった事から土壌が健全になったと判断し、その後は春1回の施用に切りかえた。
- 当初はハウス脇に水田があり、EMを使用した水田の水をかん水に利用していた。暗渠から出る水田の排水が真っ赤になっていたことがあり、その水を使うことはハウスの光合成細菌の密度を高めるのに有効であったと思われる。
- 栽培全体の省力化を心がけている。栽培が安定してきたらEMの使い方や施用する資材も簡素になってきた。ハウスの外は草を自生させ、適宜に刈り込みを行うようにしたところ、ハウス内の害虫が減少したように感じている。
4) 出荷形態
労働力に限りがあるので、農協や業者を通じた注文販売を主体としており、市場の評価も高い。
また、こだわりのセット販売やカタログ販売の商品としての問い合わせも多いが、限定出荷に限っている。
地元では他の生産者の少ない6月だけスーパーで販売しているが、人気が高く品薄状態が続いている。
収 量 :4,000kg/10a(8kg入り500ケース)
糖 度 :16度以上(brix)
4. EMボカシ作り
1) 概要
EMボカシの製造は12月に行う。新篠津村には現在1㌧型1台と1.5㌧型2台、計4.5㌧の材料の撹拌・加温ができるEMボカシ製造機があり、村内のEM実施者が共同で使用している。
2) 材料
米ぬか | 1,000kg |
魚かす | 100kg |
もみ殻 | 20kg |
EM-1 | 4㍑ |
糖蜜 | 4㍑ |
3) 仕込み方
ボカシ製造機でほぼ一日間材料を温めた後にEM、糖蜜、水分を加える事で、発酵初期の温度を確保している。
水分調整は、撹拌した材料の一部を取りだして桶に入れ、水分を加えながら所定の水分量に調整する事によって、全体に必要な水分量を計算し、EM、糖蜜の希釈液で全体の水分調整を行っている。
仕込んだEMボカシはビニールを敷いた1㌧枠に入れて倉庫に積みあげ、春まで熟成させる。
外が雪で覆われる厳寒期でありながら凍ることもなく、むしろ湯気が出るくらいに微生物活性が高い。
5. 事例の特徴
早川氏の事例は以下の点で特徴的である。
①連作障害を克服して、安定した収量を可能にしていること。
②有機栽培で、慣行栽培と同等もしくはそれ以上の収量と品質を維持していること。
③専業で規模の大きい経営でありながら有機栽培ができていること。
④ダイズ生産では、新たにEMを活用し始めた仲間も同等の成果を上げていること。
⑤27年間にわたってEMを活用した栽培を継続し、かつ省力、簡素化していること。
⑥メロン、水稲、大豆、黒豆に整流結界を施している。
資料1:早川氏のダイズ機械化有機栽培の実際
資料2:早川氏のメロン有機栽培の実際